2026/03/05 12:00

CROSS REVIEW 2

小説から滲む、創作へのリスペクト

文:菅家拓真

デジタル・アルバムと、同名の書簡型小説『二人称』がリリースされた。2曲のインスト楽曲を含む全22曲と、32通の封筒に収められた約170枚の手紙。手紙には少年の書いた詩(五線譜やコードが書いてある)と、“先生”による添削が記されており、アルバムには少年の詩に演奏、歌唱をつけた音源が収録されている。

私は『二人称』の詳細が公開された時、ヨルシカが完結するのかと思った。『だから僕は音楽を辞めた』『エルマ』の初回限定盤の公開に続き、『盗作』のカセット・テープと小説が再販された。そして、立て続けに公開されるフル尺のライブ映像。全てがアーカイヴ化され、一連の活動が“ヨルシカ”という作品としてパッケージングされるかのような予感を感じた。

しかしというものの、本作を読み終える / 聴き終える頃にはそんな不安は完全に払拭されていた。それは『二人称』という作品が、集大成というにはあまりに実験的だったからだ。それに、計22曲の大作を出しておいてなお、“アポリア”で浮き上がる気球のような、底知れぬ知的好奇心を感じる意欲作だった。

ミニマル・ファンクの“修羅”や、変拍子を刻みながらホーンを遠くに飛ばす“雲になる”、ボサノヴァのリズムに、ヨルシカの美しい歌詞、suisの低音が活きる“火葬”など、幅広いジャンルをヨルシカの音楽としてパッケージングしていく。“逃亡”、“ブレーメン”、“ルバート”、“火星人”のジャズ・アプローチに加え、ここまで懐が深いとは......。

ヨルシカ - 修羅(OFFICIAL VIDEO)
ヨルシカ - 修羅(OFFICIAL VIDEO)

先行公開された5つ封筒に綴られる作品への姿勢が印象的だった。先生への添削依頼に始まり、“雲になる”と“花も騒めく”の詩が添えられている一通目。その次の週に送られた、お礼と返信が綴られた二通目。“魔性”の詩が添えられ、「魔性」という言葉について、関連作品が記されている三通目など。

ここで綴られた内容は、n-bunaの創作へリスペクトが込められているように感じた。「詩の内容に関わる添削はあまり積極的に行いたくありません。」には、その人にしか作れないものを尊重する意思が、“魔性”の「オマージュと、文脈のない引用を見間違える」には、テーマに沿ったオマージュ、タイアップを貫いてきたヨルシカの誠実さが投影されているのだろう。

ヨルシカはこれまで、音楽を主体に、解釈をより深めるためのものを公開してきた(先述の限定盤やインタビューもそうだ)。音楽単体で楽しめるが、深く知りたい人はコレを読んでね。というスタンスをとっており、それは今作にも共通している。しかし今作は、音楽と小説の両方が主体であり、双方向の矢印を向きながら、それぞれが独立した作品として素晴らしいものになっている。つまり、小説の解釈を深めるための音楽であるのと同時に、音楽の解釈を深めるための小説であるのだ。

以前行われた尾崎世界観(クリープハイプ)とn-bunaの対談にて、『盗作』初回限定盤に付属する小説は“易しくない”と評されており、音楽への甘えを感じない、小説単体としての完成度が高く評価されている。そこでは同時に、付属の小説は“アルバムの攻略本ではない” と明言されている。

今回の小説がアルバムの攻略本になり得るかというと、半分くらいはイエスと言えるだろう。『幻燈』のように文学作品からの引用、オマージュがされた楽曲も含まれ、それが“先生”とのやりとりのなかで明らかになるからだ。攻略本になり得ないもう半分は、いわゆる“易しくない”部分にあたる。決して難解な物語ではないが、手書きの原稿用紙、封筒という複雑なフォーマットがストーリーと絡む面白さがあり、『二人称』はその形式である必然性を感じる素晴らしい作品だと感じた。

このふたりの文通を、ぜひあなたの目線から、あなたの手で、一度きりの読書体験、音楽体験として体に刻み込んでほしい。

この記事の編集者

[コラム] ヨルシカ

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